コラム

家庭用3Dプリンターとハイエンドな産業用3Dプリンターの違い

2022年09月29日

3DプリンターはFDMの基本特許切れ以降、安価なものが大量に増えました。
今では個人向けの数十万円台のものや、3万円を切る価格の3Dプリンターもあります。

しかし一方で、産業用の3Dプリンターは安い物でも百数十万円、上位機種になると2,000万円~5,000万円する産業機械という位置付けです。

その差はどのようなところにあるのか、気になる精度はどこまで違うのか、解説していきます。

家庭用3Dプリンターの特徴

数万円から数十万円程度の価格帯の3Dプリンターの特徴として、下記が挙げられます。

特許切れになったFDM方式が多い

安価な3DプリンターにはFDM方式の機種が多いです。

FDM方式は米国Stratasys社が開発したものですが、2009年に基本特許期限が切れました。
そのタイミングで様々な後発メーカーが業界に参入したことで、民生用・個人用の安価な3Dプリンターが広まったという歴史があります。

安価なものは個人が趣味で楽しむことを前提に作られている

今や、たくさんのユーザーが趣味で3Dプリンターによるものづくりを楽しんでいます。

フィギュアの3Dモデリングから造形まで一人でこなしてしまう個人ユーザーも珍しくなくなってきました。さらに、無料で3Dモデルデータを提供するプラットフォームも広まりつつあります。

安価な個人向け3Dプリンターと産業用3Dプリンターの比較

安価な個人向け3Dプリンター、産業用3Dプリンター。
具体的にどのように違うのでしょうか?
比較しやすいように、安価なFDM方式の機種と、業務で一般的に用いられているミドルクラスの産業用FDM機種を比較するイメージでまとめました。

一つずつ見ていきましょう。

精度

まずは「造形精度」が違います。
一口に造形精度と言っても、軸が2つあります。
入力した3D CADデータ通りに造形されるという意味での「寸法精度」と、表面の仕上がりという意味での「表面精度」です。

- 家庭用3Dプリンター産業用3Dプリンター
寸法精度変形しやすい、反りの発生、不正確変形しにくい、反りを抑える、精度が出やすい。
表面精度荒い、サポート除去部分が荒れる均一な表面精度、サポート除去時の表面の荒れがすくない

安価な3Dプリンターの精度

造形によく用いられる「ABS樹脂」は、温度管理がうまくできなければ、歪みや反りが出やすい性質があります。

積層ピッチと精度について

3Dプリンターは、下から上に層を積み重ねていくことで造形します。
積み上げられた一層ごとの厚さが「積層ピッチ」です。平たく言うと層の厚みですので、当然、積層ピッチが細かいほど滑らかな造形が可能ですが、「積層ピッチ=精度」ではありません。業務用の3Dプリンターで「精度」というと多くの場合「寸法精度」を意味します。Z方向の厚みを細かくしてもXY方向の精度が出なければ思い通りの寸法に造形はできません。また、造形後にモデルの反りがあると精度も変わってきてしまいます。

産業用3Dプリンターの精度

3Dプリンターの精度を実現するために、2つの技術が必要です。

技術1.正確にモデルを造形する技術

正確にモデルを造形するために、産業用3Dプリンターでは本体構造やヘッドを正確に動かす機構やプログラムを採用しており、これにより高精度な造形をすることが可能です。

技術2.造形したモデルの変形を抑える技術

造形したモデルの変形を抑えるためには熱収縮や光硬化のコントロールが必要です。
ストラタシスのFDM方式の3Dプリンターには、ヒートチャンバー(オーブン機構)が採用されており、これにより造形エリア内温度を安定制御し、熱収縮を抑制することが可能です。
それによりABS樹脂などの熱収縮しやすい材料を用いたとしても歪みの発生を抑えることが可能です。

低価格帯の3DプリンターでPLA対応機種が多いのは、PLAが熱収縮しにくい特性を持っており、モデルの反りを抑えるための特別なノウハウが必要ないからです。

ストラタシスのPolyJet方式の3Dプリンターは多様な材料を組み合わせて使える機種も多いですが、材料が増えることで変形に対する抑制に高い技術を要します。

ストラタシスはその技術が高度なため、一般的な3Dプリンターよりも豊富な材料を変形を抑えて造形することができるのです。

安定性

3Dプリンターの安定性とは「トラブルの頻度」と言い換えることができます。

2Dプリンターでも印刷トラブルは頻繁に起こります。
材料、機械機構、サポート材、ソフトウェアといった要素が複雑に絡み合う3Dプリンターでは尚更です。

- 安価な3Dプリンター産業用3Dプリンター
装置のトラブル装置トラブルが多く、造形が止まることもある。滅多にトラブルは発生しない
造形失敗崩れてしまったり、フィラメントが糸状に固まったりすることがある滅多にない

安価な3Dプリンターの安定性

安価な3Dプリンターは、造形の途中で崩れたまま稼働を続けてしまうといったトラブルもよく報告されます。

例えば「翌日の朝のプレゼンのためのモデルを退勤前に造形を開始する」というシーンで、安定性に不安のある3Dプリンターを用いることは非常にリスキーです。

産業用3Dプリンターの安定性

メーカーや機種にもよりますが、例えば安定性に定評があるStratasys社の産業用3Dプリンターの場合、造形の失敗は滅多に起きません。
そのため、ユーザー様からは「ギリギリまで設計をブラッシュアップし、それをサンプルに反映させることができる」という声を頂きます。

速度

ここで言う速度とは「造形スピード」を指します。
造形を始めてから終わるまでどれだけ時間が必要かという点です。

3Dプリンターは、サイズや精度に依りますが、造形に数時間程度掛かります。
このリードタイムの長短は、製品開発や製造時に大きな差をもたらします。

安価な3Dプリンターの速度

3Dプリンターは基本的に印刷ヘッド、ノズルといった何らかの可動部があります。

造形速度を上げるには、高速かつ正確に動く機械機構が必要です。しかし安価な3Dプリンターでは限度があります。

産業用3Dプリンターの速度

製品開発やサンプルの作成時のリードタイムを短縮できれば、より高頻度に3Dプリンターを活用できることになります。
このため、産業用3Dプリンターでは高精度と高速性の両立を意識して製品開発がされています。

また、速さを最大限に優先したいシーンもあると思います。
例えば何度も出し直ししたり、複数パターンで比較したりするシーン等です。

そこで産業用の3Dプリンターでは、積層ピッチを厚くすることで時間の短縮を可能にする「高速モード」を搭載している機種もあります。

ソフトウェア

安価な3Dプリンターのソフトウェア

安価な3Dプリンターではソフトウェアが日本語に翻訳(ローカライズ)されていないものもあります。
グローバル展開しているメーカーの産業用3Dプリンターでは翻訳して提供されていることが一般的です。

産業用3Dプリンターのソフトウェア

3Dプリンターは歴史的に標準フォーマットとしてSTLフォーマットが使われています。
3D CADデータをSTLフォーマットに変換して使いますが、エラーが出ることもあります。

産業用3Dプリンターの上位機種では主要な3D CADのネイティブデータ形式にも対応しており、STLへの変換不要で使えるものや、エラー補正を自動で行ってくれるものもあります。

使える材料の種類

安価な3Dプリンターで使える材料

安価な3Dプリンターでは、使える材料の種類は多くありません。
熱収縮を起こしづらく造形中に歪みや反りが比較的起こりにくいPLAをメインに使用するものが多いですが、造形後のモデルは熱に弱かったり変形しやすい傾向にあります。

また、高機能の材料は使えないというものがほとんどです。

産業用3Dプリンターで使える材料

産業用3Dプリンターは、高品質な専用材料が提供されています。

また、いくつもの材料を使える上位機種では多様な物性の材料に対応し、ABS、カーボン入りナイロン、生体適合性樹脂、耐候性樹脂、ポリカーボネイト、ULTEM、アクリルベースの硬質材料や透明材料、軟質材料さらにはPPライク材料、フルカラー材料等、幅広いラインナップがあります。

サポート材の取りやすさ

安価な3Dプリンターのサポート材

安価な3Dプリンターでは、そもそもサポート材と造形材料が同じ材料を用いているためきれいに取り除けないものもあります。また、形状によってはそもそもサポート除去ができない場合もあります。

サポート材の除去方法は、手で取る、ニッパーを使う、こびりついたサポート材を研磨し除去する等の手間が掛かります。

産業用3Dプリンターのサポート材

産業用3Dプリンターでは、除去しやすい専用のサポート材を使用することが多いです。
中には専用の薬液や水で洗い流せるものもあります。

造形サイズ

安価な3Dプリンターの造形サイズ

安価な3Dプリンターは、基本的にデスクトップタイプ、つまり個人が机の上で使うシーンを想定しているため、筐体が小さいことが多いです。よって、造形サイズも小さくなります。

産業用3Dプリンターの造形サイズ

産業用3Dプリンターは、デスクトップタイプのものからオフィスに置ける中型機、工場で用いる大型機等、造形サイズも広いラインナップがあります。

その他

他にも様々な違いがあります。例えば、産業用プリンターには、ヘッドの交換が簡単にできるように設計されている製品があるなど、メンテナンス性も考慮した製品が多く存在します。

他方、安価な3Dプリンターには産業用で使えるレベルの保守サービスが提供されていない(オンサイト対応がない、技術者派遣ができない、修理に時間が掛かる等)ケースもあります。

メンテナンス性、保守性を考慮しても産業用プリンターはアフターサービスが充実していると言えます。

この記事の監修者

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アルテック株式会社 デジタルプリンタ営業部 3Dプリンタ営業課 渡邊 誠也
学生時代に3Dプリンターと出会う。以来、3Dプリンターに関わる仕事を求めアルテックに入社。さらに3Dプリンターの沼に入り込み、個人でもMakerbot社の3Dプリンターを所有。その知識量から、部内では3Dプリンターマイスターと呼ばれている。 さらに最近は愛犬家としても社内で知られている。
日々お客様からいただく生の声を糧に、「今、本当に求められている情報」をWebサイトやWebセミナーで精力的に発信している。

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