金属3Dプリンターの選び方
切削や鋳造では難しい複雑形状品の製造が可能になることから、金属3Dプリンターが注目されるようになりました。また近年の造形品質向上により、業務用にも十分に使用可能な選択肢となりつつあります。海外ではすでに航空宇宙、自動車、医療などの幅広い用途で使用されており、金属素材による3D造形は、日本でも今後の活用が期待されています。
ここでは金属3Dプリンターの特徴や選び方についてご紹介いたします。
金属3Dプリンターの方式
金属3Dプリンターは、大きく4つの方式に分類することができます。方式により扱いやすさや、必要な設備が異なります。パウダーベッド方式(PBF /Powder Bed Fusion)粉末床溶融結合/粉末焼結積層造形
パウダーベッド方式は、金属粉末を敷き詰め、そこへ熱源を照射して溶融・凝固させます。熱源によりSLM(Selective Laser Melting/レーザー積層造形)とEBM(Electron Beam Melting/電子ビーム積層造形)の2つに分けられます。
SLMは高出力のレーザーを金属粉末に照射します。造形精度が高く、最も普及しており、実績数も多くなっています。しかし、粉塵対策、防護服、不活性ガス用の設備、排気設備、フライス機、ワイヤーカッター、オーブン等が必要となるため、取り扱いには費用がかかります。また運用には専任の技術者が必要となります。
EBMは、レーザーの代わりに電子ビームを金属粉末に照射します。SLMに比べて精度は劣りますが、大きな部品の場合はプロセス全体が早くなります。チタン合金やコバルト・ニッケル合金など、融点が高くレーザーでは造形するのが難しい材料が使用できることから、航空宇宙や医療分野で活用されています。SLMと同じく粉塵対策、防護服、不活性ガス用の設備、排気設備、フライス機、ワイヤーカッター、オーブン等が必要です。
デポジション方式(DED/Directed Energy Deposition)指向性エネルギー堆積方式
デポジション方式は、ノズルから粉末材料を供給しながら、同時にレーザーを照射して材料を溶融結合します。破損した金属部品の修復・肉盛などが可能です。造形速度が速く、装置の大型化が容易ですが、造形中の酸化による金属劣化や精度が低いことが課題とされています。バインダージェッティング方式(BJT/Binder Jetting)結合剤噴射方式
バインダージェッティング方式は、ビルドプレートへ金属粉末を平らに敷き詰め、バインダー(結合剤・接着剤)を噴射して固体化し、焼結して完成させます。粉塵対策、粉末管理、排気設備、耐火設備、ガス設備等が必要となります。造形スピードが速く、大量生産が可能となります。また材料選択の幅が広いのが特徴です。Desktop Metal(デスクトップメタル)社のProduction System(プロダクションシステム)では、オープンマテリアルプラットフォームを採用しており、MIM業界で使用されている金属粉末やカスタム合金をサプライヤーから調達できるため、コストを抑えることが可能です。
バウンドメタルデポジション方式(BMD/Bound Metal Deposition)
金属粉末とバインダー(結合剤)を混錬した材料を使ってFDM(Fused Deposition Modeling)方式で造形し、その後脱脂や焼結を行うMIM(Metal Injection Molding/金属粉末射出成型)の技術を応用した新しい方式です。Desktop Metal(デスクトップメタル)社のStudio System(スタジオシステム)で採用されており、安全で手軽に造形できるため扱いやすいのが特徴です。
金属3Dプリンターを選ぶポイント
金属3Dプリンターを選択する際、どのような点に注意したら良いのか以下に紹介いたします。造形に用いたい材料(金属素材)
金属3Dプリンターでは、使用できる材料に制限があります。どの材料を使用して造形したいのか候補を決めてから、3Dプリンターの装置を選ぶと良いでしょう。3Dプリンターメーカーによっては、装置販売開始後も、新材料での開発を続けているため、現時点では使用できない材料を、数年のうちに使用できる可能性もあります。メーカーまたは販売業者へ、今後の材料開発がどのように予定されているのか、情報を得ることも必要です。
近年注目されている素材について紹介します。
ステンレス
3Dプリンターで使用できるステンレスはSUS316L(ステンレス鋼)と17-4PH(高強度ステンレス鋼)です。SUS316Lは、高温から低温までの耐食性を特徴とする、過酷な環境に適した完全オーステナイト系のステンレス鋼です。
17-4PHは析出硬化型の鋼で、軽度の腐食環境や高強度が要求される用途など、幅広い産業分野で使用されています。
銅
電気と熱の伝導性と延性を特徴とし、電気機器、配管、熱伝導の用途に最適です。 熱伝導率の高い銅は、熱を加えると他の場所も溶けてしまうことから、金属3Dプリンターで使用するには難しいとされてきましたが、Desktop Metal社のStudio Systemでは銅が使用できるようになりました。
チタン
Desktop Metal社は2021年9月、Studio Systemにチタン合金Ti-6Al-4V(Ti64)の使用を認定したことを発表しました。
チタン、アルミニウム、バナジウムの合金であるTi64は、最も広く使用されているチタン合金で、高い引張強度、耐食性、生体適合性を特徴としています。高い強度対重量比を持つTi64は、航空宇宙・防衛・自動車・石油・ガスなどの産業における高性能な製造用途に最適な材料とされています。また、生体適合性に優れていることから、手術器具やインプラントなどの医療用途にも適しています。
材料 | 特徴 |
---|---|
高強度ステンレス鋼 SUS316L |
析出硬化型の鋼で、軽度の腐食環境や高強度が要求される用途など、幅広い産業分野で使用されている |
ステンレス鋼 17-4PH |
高温から低温までの耐食性を特徴とする、過酷な環境に適した完全オーステナイト系のステンレス鋼 |
クロムモリブデン鋼 4140 |
最も汎用性の高い鋼の一つである4140鋼は、靭性、高疲労強度、耐摩耗性、耐衝撃性を特徴としており、産業用途に最適な万能鋼 |
鋼 Cu |
電気と熱の伝導性と延性を特徴とし、電気機器、配管、熱伝導の用途に最適 |
インコネル Inconel625 |
ニッケル・クロム系の超合金で、高強度、優れた耐食性、過酷な温度に耐えることで知られている |
工具鋼 H13 |
硬さと耐摩耗性を特徴とするH13工具鋼は、熱間での硬度、熱疲労割れへの耐性、熱処理への安定性に優れた熱間加工用鋼であり、熱間加工、冷間加工の両方の工具用途に最適な金属 |
チタン合金 Ti64 |
チタン、アルミニウム、バナジウムの合金であるTi64は、その材料特性、特に高い強度対重量比と耐腐食性により、様々な高性能アプリケーションに最適な材料 |
ステンレス鋼 420SS |
高強度・高耐食性を特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼 |
金 Au |
緻密で可鍛性のある貴金属で、鮮やかな黄色の外観と高級感 |
銀 Ag |
美しく高級感のある貴金属ですが、金属の中で最も高い電気伝導性と熱伝導性、反射性を持っている |
造形物の精度
金属3Dプリンターの精度について、いまだ明確なエビデンスはありません。切削精度(数ミクロンから数十ミクロン)と同程度の仕上がりを出すのは、どの金属3Dプリンターでも難しいため、精度が必要な場合には研磨などの後加工で調整します。造形したものをそのまま使うことを想定している場合は、装置導入の前に実際に想定している造形物のデータでサンプル作成を依頼して、確認を行いましょう。
造形物の強度
3Dプリンターで造形された金属部品は、従来の製造方法で作られた金属部品と同等の強度を持つことが出来ると考えられていますが、強度についての明確なエビデンスはありません。ラティス構造の金属プリンター造形品については、ソリッドと比較すると強度が低下します。材料強度に近い強度を求める場合は、Desktop Metal社のShop Systemのようにソリッドを選ぶことをお勧めします。
造形品の形状によって強度は異なりますので、装置導入を検討する際は、実際に造形予定の形状のデータでサンプル作成を依頼し、手に取って確認を行いましょう。
造形サイズ
金属3Dプリンターで造形できるサイズは、樹脂と比較するとまだ大きくありません。導入する装置は、必要な造形サイズを満たしているか、確認が必要です。参考までにDesktop Metal社の造形サイズを掲載いたします。
メーカー | 方式 | 装置名 | 最大造形サイズ(mm) | 造形体積(cm3) | ||
---|---|---|---|---|---|---|
X | Y | Z | ||||
Desktop Metal | BMD | Studio System 2 | 300 | 200 | 200 | 12,000 |
Desktop Metal | BJT | Shop System | 350 | 220 | 200 | 15,400 |
Desktop Metal | BJT | Production System P1 | 200 | 100 | 40 | 800 |
Desktop Metal | BJT | Production System P50 | 490 | 380 | 260 | 48,412 |
健康・安全への配慮
金属粉末を使用する3Dプリンターの場合、その金属の粉末を誤って作業者が吸い込むと健康に被害が出ます。そのため金属の粉末を扱う作業者には、定期的に健康診断を受ける必要があります。また金属の粉末が空気中に漂うことにより粉塵爆発や火災の危険性があります。これらを防ぐための防塵対策や防爆対策に、防護服や排気設備等が必要となります。
健康・安全を重視した際、安心して使用できるのがBMD方式のDesktop Metal社のStudio System(スタジオシステム)です。材料は細長いスティック状になっており、取り扱いが簡単です。
設置スペース
金属3Dプリンターの導入には、大掛かりな設備等が必要なため、なかなか導入に踏み切ることが難しいと一般的には考えられます。しかしDesktop Metal社Studio Systemは、写真のように造形装置本体とファーネス(焼結炉)のみで使用が可能なため、初めて導入する金属3Dプリンターとしても最適です。インターネット接続、換気、および電力があれば設置が可能となります。
造形の手間
金属3Dプリンターは装置により造形の手間が大きく異なります。
パウダーベッド方式では、ベースプレートからパーツを取り外す作業のためにワイヤーカッターなどが必要となります。
しかしDesktop Metal社Studio Systemでは、造形⇒ファーネスでの焼結のツーステップのみで容易に造形することが可能です。
金属3Dプリンターは目的により適した装置が異なるため、どのような装置を導入したらよいか不明な場合は、ぜひ下記までお問い合わせください。
金属3Dプリンター導入のご相談はこちら 金属3Dプリンターのおすすめの製品 試してみたい方は造形(出力)サービスもこの記事の監修者
日々お客様からいただく生の声を糧に、「今、本当に求められている情報」をWebサイトやWebセミナーで精力的に発信している。