3Dプリンターの材料はここまで進化している
2025年10月30日
これまで3Dプリンターは試作用途が中心でしたが、今では治具や工具、さらには最終製品の製造にまで活用の幅が広がっています。
その背景には3Dプリンター技術の進歩が挙げられますが、中でも注目のひとつは実製品に使用できるレベルの性能を備えた造形材料の登場です。
ここでは、進化した最新の3Dプリンター材料の情報や、それらを用いた治具・工具、最終製品の製造にまで使える材料の選び方などをご紹介いたします。
実生産に使えるレベルの物性を持つ造形材料
3Dプリンターの活用の幅を広げているのは、何よりも材料の性能向上です。
ここでは、試作品の枠を超え、実製品の造形にも使える注目の材料をピックアップして紹介します。
真のシリコーン物性を実現「P3™ Silicone 25A」
従来の3Dプリンターで使える「シリコーンライク材料」は、見た目や触感こそシリコーンに似ていても、本物の性能には届かないことが課題でした。
そんな中登場したのが、Stratasys社の「P3™ Silicone 25A」です。
信越化学工業との協業によって開発されたこの材料は、伸び率600%以上、引裂強度16kN/mという優れた物性を持ち、真のシリコーン性能を3Dプリンターで実現します。
さらに、UL-94 V0の難燃性認証や生体適合性も備えているため、自動車部品やエレクトロニクス分野はもちろん、医療機器やウェアラブルデバイスといった高度な要求にも対応可能です。
この材料を活用する最大の魅力は、従来の射出成形で必要だった金型を不要にできることです。
複雑な形状やカスタム部品でも短納期かつコスト効率よく生産できるため、試作から最終製品まで幅広い用途に活用できます。
特に、少量多品種や中量生産の現場にとっては、大幅な時間短縮とコスト削減が期待されます。
PolyJet方式でタフ&フレキシブル「ToughONE」
高精細な造形が得意なPolyJet方式ですが、これまでは「美しさや精度は高いものの、強度や耐衝撃性は物足りない」という課題がありました。
Stratasys社の「ToughONE」は、その常識を大きく変える材料です。
ToughONEは、高い耐衝撃性と柔軟性を併せ持つ、PolyJet方式機種用の造形材料です。
ケースや嵌合部、スナップフィット構造、セルフタッピングネジ対応部品といった、繰り返し使われる部品の製造にも対応できます。
つまり、PolyJet方式ならではの細かなディテール表現を保ちながら、壊れにくく実用性の高いパーツの製造を可能にしています。
従来なら「美しさ」と「強さ」を両立させるのは難しいとされていたPolyJet方式ですが、ToughONEの登場により、見た目の仕上がりと実製品に耐える性能を兼ね備えた部品の造形を実現しています。
試作からテスト用途、さらには最終部品の製造まで幅広く活用できる、次世代の材料といえるでしょう。
高温対応、耐熱性に優れた「ULTEM 9085」
高温環境や薬品にさらされる部品は、一般的な樹脂では性能が追いつかないため、3Dプリンターでの造形は難しいとされてきました。
そこで注目されているのが、FDM方式用の高性能熱可塑性プラスチック「ULTEM 9085」です。
ULTEM 9085は、優れた耐熱性と耐化学性を兼ね備え、航空機内装部品や配管、自動車部品、ツーリングなど、厳しい条件下でも安心して使用できる性能を発揮します。
また、FDM方式ならではの堅牢さと安定した造形品質を持ちながら、従来の加工や成形ではコストや時間がかかっていた複雑形状のパーツも短納期で製造可能です。
3Dプリンターで作ることができる部品の領域を大きく広げる材料として注目されています。
衝撃強度の最も高い「Nylon12」
繰り返しの衝撃や振動にさらされる部品には、壊れにくさと耐久性が求められます。
「Nylon12」は、FDM熱可塑性プラスチックの中でも特に優れた衝撃強度を誇り、業界トップレベルの耐久性能を発揮する材料です。
当材料は、他のFDM造形材料と比べて100〜300%も高い破断伸びを実現し、優れた耐疲労性を備えています。
これにより、スナップフィットやヒンジ部、反復的な曲げや振動を受ける部品でも、長期間安心して使用できる柔軟性と強度を兼ね備えています。
また、耐薬品性にも優れているため、工業用途や製造現場など、過酷な環境下での使用にも適しています。
単なる試作ではなく、実際の機能部品としての信頼性を確保できる材料として、Nylon12は幅広い分野で活用が進められています。
医療用の生体適合性材料「MEDシリーズ」
医療分野で活用するパーツには、人体の皮膚や粘膜に触れても安全であることが求められます。
そこで用いられるのが、生体適合性を持つ3Dプリンター材料です。
これらの材料は、例えば皮膚に30日以上連続して触れても安全、粘膜に24時間接触可能といった認証をクリアしており、医療機器やウェアラブル機器の部品、検証用治具など幅広い用途に使われています。
短納期でカスタム設計の部品を造形できるため、試作段階から実際の医療現場に近い環境での検証までスピーディに対応が可能です。
安全性と設計自由度を両立できる材料として、医療や研究の分野で3Dプリンターの活用を大幅に広げています。
材料の選び方
3Dプリンター用の材料は年々多様化しており、柔軟性や強度、耐熱性、生体適合性など、それぞれ異なる特性を持っています。
では、実際に治具や工具、さらには最終製品の部品をつくる場合、どのような基準で材料を選べばよいのでしょうか。
ここでは、選定の際に押さえておきたいポイントを整理してご紹介いたします。
規格・適合性
まず確認すべきは、材料が求める規格や認証に適合しているかどうかです。
製造業では、業界ごとに安全基準や品質規格が定められており、それを満たさない材料は実際の製品には使用できません。
例えば、航空宇宙分野であれば難燃性や安全規格の認証、医療分野であれば生体適合性の認証などが必須となります。
こうした規格を満たした材料を選ぶことで、安心して試作から量産まで展開できます。
使用環境・耐性
材料選びでは、実際に造形物がどのような環境で使われるかを考慮することが重要です。
高温下で使用するのか、衝撃や振動が加わるのか、あるいは薬品や湿気にさらされるのかによって、最適な材料は大きく変わります。
例えば、耐熱性が必要な場合は高温対応の樹脂を、繰り返しの衝撃や曲げに耐えるなら高い衝撃強度と耐疲労性を持つ樹脂を選ぶ必要があります。
さらに、薬品や水分に触れる場面では、耐薬品性や吸湿性の低さも重要な判断基準となります。
使用環境に合わない材料を選択すると、短期間で劣化してしまうなど機能を果たせない恐れがあるため、実際の使用シーンを想定して選定することが欠かせません。
機械特性
使用環境・耐性にも似ていますが、造形物を使用時にどのような力が加わるかを想定しておく必要があります。
材料ごとに、引張強度・曲げ強度・衝撃強度・伸び率などの数値は大きく異なり、それが寿命や安全性に直結します。
例えば、強い荷重に耐える治具なら高い強度を、繰り返しの着脱や曲げに耐えるスナップフィット部品なら柔軟性や耐疲労性を重視する必要があります。
逆に、外力があまり加わらない外装カバーであれば、強度よりも仕上がりの美しさや精度を優先してもよいでしょう。
このように、機械特性を理解したうえで選定することで、壊れにくく、長く使える治具や部品製造が実現できます。
精度・仕上げ・後工程
用途によっては、寸法精度や表面の仕上がりの美しさも重要な選定基準になります。
たとえば、高精度の嵌合部や医療用デバイスなどは、小さな単位の誤差も性能に影響するため、精度の高い材料・方式を選ぶ必要があります。
また、3Dプリント後の後工程(研磨、塗装、組立など)も考慮することが大切です。
仕上げ加工がしやすい材料であれば、後処理の工数を減らし、最終製品としての完成度を高められます。
一方で、後工程が難しい材料を選んでしまうと、追加の手間やコストが発生してしまうこともあります。
つまり、材料は単に「造形できるかどうか」だけでなく、完成品までのプロセスを見据えて選ぶことが重要です。
コスト
材料選定では、性能だけでなくコストも欠かせない視点です。
近年ではハイグレードな3Dプリンターでも「安価で気軽に使える材料」が登場しており、シーンにより材料の使い分けができる機種が増えています。
試作などの用途ではコストを抑えつつ、実部品などを造形したい際は高性能な材料も使用できるといった造形材料の使い分けができれば、3Dプリンター活用の幅をより広げることができます。
まとめ
近年の3Dプリンターは、従来の「試作品づくりの道具」という枠を超え、実際の生産現場で使えるレベルの材料が次々と登場しています。
シリコーンのような柔軟性を持つものから、高い耐熱性・耐衝撃性を誇るもの、生体適合性を備えたものまで、その選択肢は大きく広がっています。
一方で、材料選びには複数の観点を踏まえた判断が欠かせません。
自社の用途に合った材料を選定することで、治具・工具から最終製品まで、3Dプリンターをより戦略的に活用することが可能になります。
当社では、お求めの要件を満たす材料のご紹介や、造形に適した機種のご案内などが可能です。
当コラムに登場した材料につきましてもご提案が可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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この記事の監修者
日々お客様からいただく生の声を糧に、「今、本当に求められている情報」をWebサイトやWebセミナーで精力的に発信している。







