カプセルトイの緻密な世界を正確・カラフルに表現
原型内製化でスピーディーなバリエーション展開が可能に
東京・台東区の駒形にはバンダイなど大手玩具メーカーがいくつかあり、周辺には関連企業が集積する。ウィルビイもカプセル自動販売機(通称ガチャガチャ)で販売されるカプセルトイなど、小型玩具の企画開発・製造を専門に行うメーカーだ。これまで国内外企業に外注していた原型制作工程を、2014 年から全面的に内製化した。そこで活躍しているのがストラタシスの3D プリンターだ。
カプセル自動販売機(ガチャガチャ)で買えるカプセルトイはその種類が多種多様。レバーを回すと無作為に商品が出てくるため、バリエーションこそが最大の魅力になる。子供たちに人気の「アンパンマン」「ウルトラマン」など定番ものも、カプセルごとにポーズが異なる。2014 年に大流行した「妖怪ウォッチ」の場合、そのバリエーションは200 種類以上にも及ぶという。玩具業界にとっては、キャラクターのバリエーションを増やし、かつそれを時流に遅れないようにスピーディーに開発することが最大のテーマになる。
「玩具の原型づくりはもともと日本や中国のメーカーに外注していました。ただ、中国の人件費高騰にともない生産コストが上がったため、開発費を下げる必要がありました。
「3D プリンターこそがこれからの玩具業界を支える」と、導入決定の指揮をとった。
時間もコストの一種ですから、開発スピードもさらに高める必要があります。そのためには、原型製作の内製化は必至だったのです」と、3D プリンター導入の経緯を語るのは、株式会社ウィルビイの太田眞社長だ。
人件費を増やさず、スピード感のある原型づくりといえば、時代は3D プリンター。同社の主要取引先を含め、玩具業界でも3D プリンターの導入は急速に進んでいる。
「 Objet260 Connex3」導入
2014 年2 月、ウィルビイは同社にとって初になる3D プリンター(他社製)を導入した。同製品はフィギュアの原型作成には向いているものの、ケースものと呼ばれる玩具は苦手。かつ成形スピードも期待通りではないことが、使ってみて初めてわかった。こうした難点を補う形で、2014年8 月にはストラタシス社製最新鋭マルチマテリアル3D プリンター「Objet260 Connex3(以下、Connex3)」の導入に踏み切った。
同製品は2014 年11 月が正式な発売日であったが、あえてベータ版の段階で導入を決定。本機の国内導入例としては最初のケースである。
導入をサポートしたのは、ストラタシス社日本販売代理店のアルテックと、以前からウィルビイがストラタシスObjet シリーズによる造形出力サービスを依頼していて、3D プリンターについて情報交換していたデジタルファクトリーである。太田社長は、両社の営業担当者からストラタシスの新型機の出力品質やスピードが、自社の用途によりフィットすることを知らされていたのだ。
「3D プリンターの世界はどんどん変わるが、今からノウハウを積み上げることが大切。ウィルビイの太田社長は、最新情報の収集にアグレッシブで決断力もある。こうした姿勢が、業界内での差別化をもたらすと思います」
小さな玩具の細かいディテールを、実際の形で検討できる
カプセルトイは、玩具メーカーが企画開発した商品の製造を請け負うだけでなく、ウィルビイのような製造メーカーが玩具メーカーに試作品を提示し、その監修を受けて、製品化されるケースも少なくない。
「試作段階での検証がやりやすくなったというのが、3D プリンター導入の最大の効果です。カプセルトイは小さな玩具ですが、腕が動かせるなど細かいギミックが随所に施されています。そうした動きも含めてディテールを実際の形を前にしながら検討できるようになりました」
ただ、3D プリンター導入によって生じた新たな“悩み” もある。
「かつては原型に修整が入れば、中国工場に指示を出し、それが戻るまで1週間程度のいわば“猶予” がありました。ところが、3D プリンターで原型を内製化できるようになったので“明日には修整したものを見せて欲しい” と言われます。原
型の修整を納得いくまで行えるのはよいことですが、そのやりとりのスピードアップには私たち自身も対応していかなければなりません」
と、太田氏は表情を引き締める。
精度は期待以上。マルチカラー出力の魅力を最大限に引き出したい
フィギュア業界でひな形や試作品を設計するデザイナーは「原型師」と呼ばれる。その一人、千葉真範氏はConnex3 の実際の使い勝手をこう語る。 「精度は期待以上のものがありました。特にケースものの嵌め合わせがぴったり合うことには驚いています。ソリも少なく、強度も十分。この点は、これまで私が経験していた3D プリンターの中では最高クラスだと思います。材料は主にABS ライク(デジタルABS)樹脂がメインですが、今後は複数のマテリアルやその濃度を組み合わせて、より多彩な表現にチャレンジしたいと思います」
Connex3 はトゥルーブラック、ショッキングピンクなどの鮮やかな46 種類のカラーを同時に、数百種類ものグラデーションで造形することができ
る。このカラープロトタイピングができる点は、製品選択の重要な決め手になっている。
「これまでは彩色したスケッチや原型に後から彩色して、納品先とイメージのすり合わせをしていました。Connex3 ではダイレクトに色彩表現ができるため、初期段階での色のイメージの合意が容易になりました」
これまで手作業でやっていたときは、企画から監修を経て、デコレーションマスター(工場彩色見本)を作るまで最短でも1カ月かかっていたのが、
3D プリンターでは原型制作工程が約1週間に短縮された。得意先の監修を経て彩色見本の工程へ進むのは以前と同じにしても、全体の工程は短くなっている。
デザイン元:デジタルファクトリー株式会社
千葉氏が今後に期待を寄せるのは、半透明のカラーバリエーションをフルに活用した原型制作だ。「造形をより立体的に見せるため、これまでは後から塗装して陰影を出すことが不可欠でした。Connex3 は色調によっては塗装が不要なところまで彩色精度が高まって来ていますが、まだ完璧とはいえない。これがパーフェクトになれば、塗装・彩色工程の大幅な削減につながることが期待されます」
顧客のデザインを造形出力するサービスへ事業を拡大
今でこそモデリングソフトで設計し、それを3D プリンターで出力する原型師たちも、かつては粘土を手でこねて原型をつくっていた。
「デジタル造形技術が登場したとき、最初はその手業をコンピュータ化するのは難しいのではないかと思っていました。しかし、優れた3 次元モデリングソフトが普及することで、それは杞憂に終わりました。原型師が感覚的に表現したいと思っている形や細部の表現が自由にできる。しかも操作も簡単。私たちのモノづくりは大きく変わりました」
と、玩具業界におけるデジタル造形の流れを語るのは、企画開発事業部の坂谷紀彦マネージャーだ。3D プリンターの導入はこうしたデジタル造形への移行をさらに加速させる。
「コンピュータ画面で見ている限りはいいのですが、出力してみるとちょっと違うということはたびたびあります。かつては、金型を起こしてからディ テールの違いに気づくこともありました。手元に3D プリンターがあれば、最終的に金型に起こす前に、そうした修整作業が容易かつスピーディーにできる。かつては親方の背中を見て学ぶのが常だった原型師の育成方法も、これからは変わっていくのではないでしょうか」
同社は、3D プリンター導入をきっかけに、顧客からの造形出力依頼を自社で受けるサービスを新たに事業化しようとしている。2015 年正月には本社移転の案内を兼ねた年賀状を顧客に配った。そこで紹介されたのが、干支にちなんだカラフルな羊のフィギュア。3D でデザインした羊を、Connex3 を使い、レッド、ピンク、イエロー、ブルーでそれぞれ出力した。体長5cm ほどの小さな羊には、豊かな羊毛のうねうねまでが見事に表現されている。
「これから3D プリンターはどんどん進化するでしょう。その波に当社も乗っていきます。2014 年には金型加工における世界有数の国際展示会“Euromold” にも参加し、最新技術動向の収集を行ってきました。原型制作の内製化をより拡大するとともに、出力サービスを新たな事業の柱に育て、業容を拡大していきたい」
と、太田社長は2015 年の抱負を語ってくれた。
お客様情報
社 名 :株式会社ウィルビイ
所 在 地 :東京都台東区駒形1-3-14 駒形TC ビル7F
創 業 :1983年9月
資 本 金 :1,000万円
従 業 員 :16名
事 業 内 容 :自販機で販売されるカプセルトイや食玩など、小型化玩具の企画開発および製造。主な取引先にはバンダイなどがある。
Webサイト :https://willbee.co.jp/
ご協力ありがとうございました。
※上記コメントはお客様の個人のご意見・ご感想であり、当社の見解を示すものではありません。
この事例で登場した製品
Objet260 Connex3(生産終了品・後継機種あり)
物性の違う3種類の材料をミックスしたデジタルマテリアルで造形。
カラー樹脂(シアン、マゼンタ、イエロー)と白、黒、透明、ゴムライク樹脂から選択した材料の組み合わせで、硬さや透明度、色彩を変えた造形をすることができます。