3Dプリンター導入事例 (富士工業株式会社 様)

2015年06月18日

新発想の卓上調理専用空気清浄機の開発に3Dプリンターをフル活用

家庭用レンジフードの専業メーカー・富士工業。商品企画から開発、製造、販売、OEM 供給、アフターサービスまでの一貫体制に特長がある。ダイニング照明の場所に空気清浄機を設置するという全く新しい発想の製品開発に、3D プリンター「Objet Eden260V」を活用している。これまで外注で行っていた樹脂部品の試作製作をほぼ内製化することで、試作コストの削減効果は80%にも達し、さらに時間短縮の効果も大きいという。

お客様情報

【社  名】 富士工業株式会社

【所 在 地】神奈川県相模原市中央区淵野辺2-1-9

【創  業】 1941 年

【資 本 金】 3 億円(国内グループ法人のみ)

【従 業 員】 919 名(平成26 年4 月現在 グループ全体)

【事 業 内 容】 家庭用レンジフードの専業メーカーとして、商品企画から開発、製造、販売、アフターサービスまで一貫体制で取り組む。卓上調理専用空気清浄機cookiray(クーキレイ)など新しいカテゴリーの商品開発にも熱心。グループ企業では、海外企業と提携した「アリアフィーナ」ブランドを展開。

【Webサイト】 https://www.fjic.co.jp

新しいカテゴリーの製品だからこそ、試作には時間と手間がかかる

貴社の事業をご紹介ください。

田村氏:家庭用レンジフードでは国内トップシェアで、市場の約半数は弊社の製品です。“汚さない” という新発想の元開発した「オイルスマッシャー」搭載レンジフードや、イタリア・エリカ社と提携し、先端のイタリアンデザインと弊社の日本品質を融合させたプレミアム・レンジフード「アリアフィーナ」などを展開しています。
最近は、ダイニング用のペンダント照明に空気清浄機能をプラスした「cookiray(クーキレイ)」という新カテゴリーの商品や、IH クッキングヒーター専用で、油煙をフィルターでろ過して循環させるフードなど、住生活の変化に対応した新製品開発にも力を入れています。

開発本部 開発部開発課 田村達基氏

クーキレイというのはどのようなシーンで使われるものですか。

田村氏:例えばダイニングルームで食卓を囲み、家族そろって鉄板焼きやお鍋をいただくというシーンですね。そこで心配なのは、肉や魚を焼くときの煙や油、ニオイが家全体に広がってしまうこと。これを防ぐために、食卓の真上で油煙を吸い取ってしまえばいい。そんな視点から生まれた商品です。食卓を明るく照らし、室内の空気もキレイに保ちます。
クーキレイは4 層のフィルターで油煙をろ過して室内に循環させることで、卓上調理の際に出る嫌な煙や油、ニオイを除去することができます。

3D プリンターを導入された目的は何ですか。

田村氏:主に「クーキレイ」の新製品開発で、迅速なプロトタイプ(試作品)開発を行うために2 年前に導入しました。インテリアとしての美観も重要ながら、構造が複雑で機能の要求も高く、従来のレンジフードに比べて、試作検討に時間がかかります。
これまでの試作制作は特に樹脂部品は外注で切削加工を行っていました。板金の加工は当然社内でもできるのですが、複雑な絞り形状となると、試作では外注しています。それだけ費用と時間がかかるのですが、以前はやむを得ないとあきらめていました。
もともと3D プリンターの存在は知っていたのですが、近年の急速な性能向上、価格低下という動きを知り、これは私たちのプロトタイプ開発にも使うべきではないかと思ったのが導入のきっかけでした。

フィルター、ディフューザー、ファンなど樹脂部品を中心に3D プリンターで試作工程を内製化

具体的にはどのような部品開発に3D プリンターを使われていますか。

原氏:「クーキレイ」では、これまで以上にデザインにもこだわろうと、当社では珍しいことですが、デザインには外部のプロダクト・デザイナーを起用しています。例えば油を除去するプレフィルター。ひまわりの種の並び(フィボナッチ数列)を模写した穴の配列を行い、意匠性を高めています。
優れたデザインですが、それを実際の製品に取り入れるにあたり、円の外側にいくにつれて穴の大きさを変えることで、吸引性能を高めるような工夫も必要でした。3D プリンターで何種類ものプロトタイプを起こし、実際に試験を行って性能の比較を行いました。もしそのとき3D プリンターがなかったら、そうした細かい検討は不可能だったといえます。

開発本部 開発部 設計部 原 功氏

他にもファンで作られる風を整流するディフューザー形状の最適化や、配線を収納するためのケースをクリア樹脂で試作して、配線の取り回しなども検証しました。ディフューザーの最適化は、流体シミュレーションソフトでもある程度できますが、それよりも、実際にプロトタイプを作って検討した方が、作業は速く進みますからね。
ターボファンの試作も3D プリンターでやっていますね。「クーキレイ」ではデザイン性も重要で、ファンの収納場所が限られるので、その小型化は必須です。ファンの設計自体は外部メーカーに委託していますが、そこから上がってくるモデリングデータを社内で出力して検討するという使い方をしています。手元で出力できることで、これまでは試作工程を考えるとやむをえず妥協せざるを得なかった部分の設計を、とことん突き詰めることができるようになりました。

フィボナッチ数列を用いたフィルター

外注費と時間を大幅に削減。設計者の自由な発想を引きだす

導入効果をコストと時間で見るとどのようになりますか。

田村氏:3D モデリングをダイレクトに社内で立体造形することができるようになり、設計の自由度が広がりました。また、特に樹脂部品の試作コストは80%まで削減できています。つまり1 回外注に出す費用で、5 回の試作ができるわけです。低コストで製作可能だから、設計者が思いついたら躊躇する必要なく、すぐに試作ができます。

原氏:作業時間の短縮効果も大きいですね。従来は平均1 週間かかっていた、外注からの試作部品の納品が、3D プリンターで内製することで半日から1 日に短縮されました。時間の余裕が生まれたことで、1 機種にかける設計・検討の時間が増えました。長期的に見れば、製品の開発期間の短縮にも当然つながります。

3D CAD ソフトによるデザインを手元で立体に出力
3Dプリンター 導入前 導入後
試作コスト - 80%削減
作成期間 平均1週間 半日~1日

数ある3D プリンターのなかで、「ObjetEden260V」を選んだのはどういう理由からですか。

田村氏:導入前にインクジェット方式の各社製品を検討しました。材料代を含む導入後のコスト、サポート材の除去など処理のしやすさ、導入後のメンテナンス・サポート、本体価格などを総合的に判断したうえで本製品を選択しました。最初は設計者の何人が3D プリンターを使ってくれるかわからなかったのですが、私たちの想定以上にみんなが使いたがりました。

現状ではどのようなモード、材料をよく利用されますか。

原氏:現在は新製品開発にかかわる約20 人の設計者のうち、導入研修を受けた半数の人が利用しています。大半はハイスピードモードで出力することが多いですが、サーフェイスの粗さは気になりません。私たちの試作品の場合、積層ピッチが30 μm もあれば十分です。
材料は、アクリル系硬質樹脂のVero グレーまたは透明な樹脂がほとんどです。今後はより大きなサイズのものが欲しいですね。今は大きい部品は分割して出力し、後から接着剤で止めて使用しているのですが、一発で造形できれば、作業はより効率化されると思います。

欲しい治具がすぐ作れるのも魅力

試作品のモデリング以外に、3D プリンターが思わぬところで利用されているということはありますか。

田村氏:私は製品開発の傍ら、自社製や市販のキッチン清掃用の洗剤を評価する仕事も行っています。疑似汚れを付けた試験片をさまざまな洗剤に浸けて汚れの落ち具合などを調べるのですが、その実験のときに使う試験片ストッカーやホルダーを、3D プリンターで自作しました。こういう治具はごく簡単な機能ではありますが、安定した試験を行うためにとても重要で、もちろんお店では売っていないため重宝しています。

原氏:板金加工のスポット溶接における部品の位置決め用の治具をこれで作ることが多いです。このように、技術者が欲しい治具をその場で作り出すことができるのも、3D プリンターの魅力の一つだと思います。

3D プリンターで出力した、洗剤の性能評価試験に使う治具。簡単な治具ならその場で作り出せる

最後に今回の導入を担当したアルテックへのご評価をいただけますか。

田村氏:「Eden260V」は大きなトラブルもなく使い続けていますが、たとえトラブルが発生してもそれに対するアルテックの対応は迅速かつ細やかです。マニュアルには書いていないTips(コツ)的な情報を提供してくれたので、機械を止めることなく使い続けることができた、ということもありました。何より、営業やサポート担当者がものづくりの現場感を共有してくれるところがいいですね。3D プリンターメーカー、販社、そしてユーザーである我々が一体となって、日本のものづくり産業を革新していくことができればいいなと思います。

左から富士工業・田村達基氏、原功氏と、「Objet Eden260V」の導入を担当したアルテック・デジタルプリンタ営業部・冨田俊一部長。
「アルテックの迅速なトラブル対応やきめ細かい情報提供には感謝しています。レンジフードはまだまだ進化(深化)の余地があり、3D プリンター活用の場は今後ますます広がるでしょう」(田村氏)

ご協力ありがとうございました。

※上記コメントはお客様の個人のご意見・ご感想であり、当社の見解を示すものではありません。

この事例で登場した製品

Objet Eden260V

高精細16μm積層ピッチのオフィスモデル。17種類から材料を選択してお使いいただけ、非常に細やかで複雑な形状や極めて薄い壁を持ったモデルをプリントします。

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